納骨堂は非課税か?

1 はじめに
納骨堂を含む建物の課税・非課税につき、興味深い判例がでました(東京地裁平成28年5月24日判決(平成27年(行ウ)第414号)、判例タイムズ1434号201頁)。
寺院運営においては、気になる点と思いますので、ご紹介させていただきます。
これは、A寺院所有の納骨堂に対し課税をした行政に対し同寺院が不服を述べたのですが、結果として認められず、「納骨堂への賦課処分は適法である」旨裁判所が判断しました。
なお、「納骨堂=課税対象」ではありませんので注意してください!
あくまで、当該裁判例は、「当該A寺院での納骨堂の使用方法」等の「個別事情」を考慮した裁判所の判断ですので、その点を踏まえて以下ご参照ください。
逆にいうと、納骨堂を寺院としてどのように使用しているかという実態に鑑みて、固定資産税が課されるか否かが判断されることになるので、寺院として参考になるかと思います

2 税金の賦されない固定資産(一般論)
通常、土地等の固定資産を所有している場合には、固定資産税等の税金が賦課されます。
地方税法348条2項は、原則として固定資産税を課することができない固定資産を定めています。
そのような、税の賦課されない固定資産として、「宗教法人が専らその本来の用に供する宗教法人法第3条に規定する境内建物及び境内地」(同項3号)、「墓地」(同項4号)などを列挙しています。

3 本件裁判例の争点
前記地方税法上、納骨堂自体は直ちに非課税とは規定されていません。
本件裁判例では、「納骨堂が地方税法348条2項3号に該当するか」という点が主たる争点となりました

 

4 裁判所の判断内容(基準部分)
裁判所は、まず基準(規範)部分として、以下のように述べました


①「『宗教法人法第3条に規定する境内建物及び境内地』とは、当該宗教法にとって、宗教の教義をひろめ、儀式行事を行い、及び信者を教化育成するという主たる目的のために必要な当該宗教法人にとって本来的に欠くことのできない建物、工作物及び土地で、同条各号に列挙されたようなものであると解される。」
②「地方税法348条2項3号にいう『宗教法人が専らその本来の用に供する』とは、当該宗教法人が、当該境内建物及び境内地を、専ら、その宗教の教義をひろめ、儀式行事を行い、及び信者を教化育成するという宗教団体としての主たる目的を実現するために使用している状態にあるものをいうと解される。要件該当性については、当該建物及び土地の実際の使用状況について、一般の社会通念に基づいて外形的、客観的にこれを行うべきである」


 

5 裁判所の判断内容(本件事案への当てはめ)
裁判所は、上記基準を前提として、本件事例につき以下のように判断しました。


「本件非課税対象外部分の使用状況を,一般の社会通念に基づいて外形的,客観的にみると,A寺院は,本件非課税対象外部分につきA宗の教義をひろめ,儀式行事を行い,信者を教化育成するという主たる目的のために使用していないとはいえないが,当該目的のために必要な,本来的に欠くことのできない建物の一部であると評価することにはやや困難がある。

また,仮にそのような評価が可能であるとしても,本件納骨堂の使用者については宗旨宗派を問わないとされているのみならず,本件建物においては,A寺院以外の宗旨宗派の僧侶等が主宰する法要などの儀式行事が行われることが許容され,その場合,使用者はA寺院に対して施設使用料を支払うこととされ,実際にも,それが例外的とはいえない割合で行われており,A寺院は,上記のような使用者を訴外会社を通じて広く募集していることに照らすと,A寺院が,上記の各部分(本件非課税対象外部分)を,専ら宗教団体としての主たる目的を実現するために使用している状態にあるとは認められないといわざるを得ない。


裁判所は前記基準に従い、「当該寺院が当該施設を自らの教義を広めるために 使っていたか」という観点から、「他宗派のために使っている」等の諸般の事情を考慮して、税金の賦課は妥当であると判断したのです。

寺院は一般的に広大な土地建物を所有することが多く、固定資産税が賦課されるか否かは重要な問題です。近年、納骨堂につき宗派を問わない形で募集をかける寺院も散見されます。実際の寺院規則や運用実態等に鑑みて、宗教施設についても賦課されることがあり得るようですので、今後はこのような観点も含めて、寺院としての方向性を定める必要があるでしょう。

「墓地」についても宗派を問わない運営をされている寺院がありますが、地方税法上明確に、賦課されない固定資産として「墓地」と定められていますので、今回の納骨堂のような問題は生じないかと思われます。

寺院施設における非課税要件該当性については、その他、複数裁判例がでていますので、今後も適宜ご紹介したいと思います。